なぜ水は凍ると膨らむのか?科学で解説する氷の結晶と不思議な性質

導入:当たり前だけど、不思議な水の性質

冬の朝、水道管が凍って破裂したり、冷凍庫に入れたペットボトルがガチガチに膨らんでいたりするのを見たことはありませんか?
「水は凍ると膨らむ」という現象は誰もが知っていますが、他の多くの物質とは逆の動きが起きているのは、科学的には非常に興味深いことです。なぜ、水だけが固まると体積が増えるのでしょうか?この問いを紐解くと、物質の“分子構造”と“温度・圧力”の関係が見えてきます。


1. 普通の物質は冷やすと縮む

多くの物質では、温度が下がると分子や原子の間の熱運動が弱まり、分子同士がより密に近づくことで体積が縮みます。

  • 金属線が冷えると収縮するため、鉄道のレールには隙間が設けられる。
  • 液体が冷えると、密度が上がるのが一般的です。

この常識に比べて、水の性質は“異常”と呼ばれることがあります。つまり「冷えると縮む」ではなく、「冷えるとある温度で体積が一旦縮んだ後、さらに冷えると体積が増す」という挙動を示します。


2. 水の分子構造と水素結合

水(H₂O)分子は、酸素と2つの水素からなる“くの字型”の形をしており、分子全体に極性があります。酸素の側が電子を引きつけ、水素側がややプラスの電荷を持つため、分子と分子の間で 水素結合 ができます。

この水素結合が、水の異常な密度特性や体積特性を生み出す鍵です。特に、液体状態から凍る過程でこれらの結合がどう並び直すか、どのような結晶構造を作るかが重要になります。


3. 液体の水と氷(ice Ih)──六角形格子と体積増大

六角形格子(Ice Ih:アイス I-h)とは

常圧のもとで水が凍ると、自然界で最も一般的に見られる氷の結晶構造は 六角形格子(ice Ih) です。
この構造は、水分子が水素結合を使って安定した六角形のネットワークを形成し、その間に“空間的な隙間”ができるため、分子が均等に詰まっていません。これが体積の拡大の原因になります。

体積および密度の数値

  • 液体水(4℃付近)の密度は 約 1.000 g/cm³
  • 氷(0℃氷、水が凍った状態)の密度は 約 0.9167〜0.917 g/cm³
  • この違いが、体積の 約 9% 増加 をもたらします。すなわち 1 リットルの水が凍ると同じ量の氷は約 1.09 リットルになるということです。

このような数値は、凍結による体積変化を理解するうえで非常に役立ちます。


4. 4℃で最大密度になるという特異性

水は、温度を下げるごとに密度が上がりますが、4℃のときに最大密度を持つという性質があります。

  • 水が冷やされて 4℃ を下回ると、分子間の水素結合がより開いた構造を形成し始め、分子間に空隙ができるため密度は下がり始めます。
  • その後 0℃近くに至り氷結が起こると、体積がそのまま“六角形格子”構造で固定され、さらに密度が下がります。

この“密度最大点を持つ液体”という性質は、水が湖や川で「表層が凍ったときも底は水が残る」という現象を可能にし、生命にとって非常に重要な働きをします。


5. 氷が水に浮く理由

上記の密度の差から、氷は液体の水より密度が小さくなるため、水面に浮きます。

  • 氷の密度:約 0.92 g/cm³(0℃近く)
  • 液体水(4℃付近):約 1.00 g/cm³

この浮く性質があるため、湖や海の表面が凍っても、下層の水は凍らずに残り、魚などの生物が冬を過ごすことができるのです。


6. 自然界や生活での例:この体積増加がもたらす影響

  • ペットボトル・缶の破裂:凍らせて中身の体積が増えることで、容器に圧力がかかり破裂する。
  • 道路・岩の凍結破砕:水が岩の隙間に入り、凍って膨らむことでひびを広げ、山や岩壁の形を徐々に変える。
  • 湖沼の氷の浮きと生態系の保護:表面だけが凍るので、氷が断熱層となり、水底の生物を保護する。

7. 氷の多形・極限条件下での異相(ice polymorphs)

普段わたしたちが見ているのは ice Ih 構造ですが、極低温や高圧の環境では、全く異なる氷の相(結晶形)が多数確認されています。

  • 研究では、約 20種類前後の氷の結晶構造(lovisit ice II, III, V, VI, VII など) が存在することがわかっています。
  • これらは日常生活では見られませんが、惑星の内部や高圧実験装置内など、特別な環境下で現れます。

8. まとめ:水の「膨らむ性質」は偶然ではなく必然

水が凍って膨らむという現象は、分子の構造、水素結合、結晶化パターン、温度依存性などが複雑に絡み合った結果です。以下のように整理できます:

  • 六角形格子構造 (ice Ih) による隙間 → 体積増加
  • 液体での 4℃ 最大密度という特異性
  • 氷の密度 ≒ 0.92 g/cm³ vs 液体水 ≒ 1.00 g/cm³ → 約 9% の体積増加
  • 氷が浮くことで自然環境に重要な影響を及ぼす

水のこの「異常」性質のおかげで、湖は全面凍結せず、生命が保たれ、地形の風化や気候の循環にも影響します。

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