飛行機が飛ぶ原理:ニュートンの第三法則とターボファンエンジンの推進力(スラスト)の秘密

序章:音速に挑む「炎の推進力」

飛行機が空を飛ぶ力を揚力とするならば、前へと進むための力、すなわち推進力(Thrust)を生み出しているのがジェットエンジンです。巨大なファンが回るターボファンエンジンから、戦闘機に使われるアフターバーナーまで、その仕組みは一見複雑に見えます。

この「推進力の謎」の背後には、古代からの物理学の基本原則、特にニュートンの運動の第三法則という、非常にシンプルかつ強力なトリックが隠されています。

本記事では、ジェットエンジンの推進力の秘密を解明するため、大量の空気という証拠、高速の噴射というトリック、そしてニュートンの第三法則という容疑者を徹底的に追跡します。


1. 容疑者の正体:ニュートンの第三法則と「作用・反作用」

ジェットエンジンが推進力を得る根幹は、物理学の最も基本的な法則にあります。

🔹 秘密兵器:ニュートンの運動の第三法則

「すべての作用に対して、必ず等しく、反対向きの反作用が存在する。」

ジェットエンジンは、大量の物質(空気と燃焼ガス)を後方に作用(Action)として噴射することで、その等しい反作用(Reaction)として、機体を前方に押し出す推進力(Thrust)を得ています。

🔹 活性化のスイッチ:運動量保存の法則

ジェットエンジンは、吸い込んだ空気にエネルギーを加えて高速で後方に排出し、空気の運動量(質量 × 速度)を変化させます。この運動量の変化の反作用こそが推進力となるのです。


2. 犯行の瞬間:ジェットエンジンの基本構造と「加速のトリック」


ジェットエンジンは、以下の4つの主要なプロセスを通じて、吸い込んだ空気を効率よく加速させています。a cutaway diagram of a turbofan jet engine showing the fan, compressor, combustor, and turbineの画像

🔹 犯行パターン:4つのステップ

  1. 吸気(Intake & Fan): エンジンの前面にある巨大なファンが大量の空気を吸い込みます。
  2. 圧縮(Compressor): 吸い込まれた空気が多段のコンプレッサーを通過し、高圧かつ高温に圧縮されます。この高圧・高温の状態は、燃料噴射後の燃焼を非常に効率的に行い、より大きなエネルギーを取り出すために不可欠な熱効率向上の準備段階です。
  3. 燃焼(Combustor): 圧縮された空気に燃料を噴射し、燃焼させます。これにより、体積が急激に膨張した超高温・高圧の燃焼ガスが生成されます。
  4. 排気と推進(Turbine & Nozzle): 燃焼ガスはタービンを回した後、ノズルから高速で後方に噴射されます。この高速排出の反作用として、飛行機は前進します。

🔹 容疑者の計算:ターボファンエンジンにおける推進力の配分

現代のジェットエンジンの主流であるターボファンエンジンは、推進力の約70〜80%を、燃焼ガスではなく、ファンが周囲の空気を加速して後方に送る力(バイパス流)から得ています。このバイパス比を高めることで、燃料効率が大幅に向上しています。


3. 謎が深まる理由:エンジン効率と「ブレード」の役割

ジェットエンジンは、いかに少ない燃料で大きな推進力を得るか、つまり熱効率と推進効率を追求して進化してきました。

🔹 安定性の重要性:タービンブレードの秘密

燃焼ガスに直接晒されるタービンブレードは、約1700℃にも達する超高温と、遠心力による超高応力に耐えなければなりません。ブレードは、耐熱性に優れた特殊合金で作られ、さらに内部に微細な冷却用の通気孔を設けて、常に空気で冷却するという、高度な熱対策が施されています。この技術が、エンジンの性能と寿命を決定づけます。

🔹 科学的応用:推力偏向ノズル

最新の戦闘機では、排気ノズルの向きを上下左右に変えられる推力偏向ノズルが採用されています。これは、排出ガスの作用の向きを変えることで、機体に加わる反作用(推進力)の向きを自在に変化させ、超機動性を実現する技術です。


4. 科学に基づいた応用:ジェットエンジンの多様な進化

ジェットエンジン技術は、用途に応じて推進力を生み出す方法が異なります。

🔹 ターボファンとターボプロップの効率の違い

  • ターボファンは、排気ガスとバイパス流の高速噴射による反作用で推進力を得ており、主に高速飛行に適しています。
  • ターボプロップエンジンは、燃焼エネルギーの大半をプロペラの回転による空気の押し出しに費やします。プロペラは低速域で大量の空気を動かすため、ターボファンよりも低速域での推進効率が非常に高く、主に輸送機や地域路線で使用されます。

🔹 ハイバイパス化と環境負荷の低減 燃費効率を高めるためにバイパス比を上げる(ファンが動かす空気の割合を増やす)技術は進んでいます。現代の大型機用エンジンは、バイパス比が10以上に達するものもあり、より多くの空気を比較的低速で排出することで、燃費改善と騒音低減に貢献しています。

まとめ:ジェットエンジンは「作用と反作用の結晶」

なぜジェットエンジンは推進力を得るのか? それは、エネルギーを使って大量の空気と燃焼ガスを高速で後方へ作用として噴射し、その結果として等しい力(反作用)を機体が前へと受け取る、ニュートンの運動の第三法則を応用しているからです。

ジェットエンジンは、空気という物質を操り、作用と反作用の原理を極限まで追求した、物理学と熱力学の「結晶」なのです。

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